KCIで「熊谷登喜夫:軽やかに時を超えた靴デザイナー」展。

靴デザイナー熊谷登喜夫の作品展「熊谷登喜夫:軽やかに時を超えた靴デザイナー」展が、(公財)京都服飾文化研究財団(KCI)で、6月24日までの日程で開催されている。生誕75周年を記念しての開催だ。

1981年、パリ・ヴィクトワール広場に「トキオ・クマガイ」という靴ブティックがオープンした。ウインドーには、ジャクソン・ポロックやジャン・コクトーの作品をモチーフにしたパンプス、ネズミやキツネの顔をしたカッターシューズ等々。ファンタジーとユーモアに溢れたデザインは、瞬く間に世界に広まり、虜にした。デザインしたのは、熊谷登喜夫。初めて世界が認めた日本人靴デザイナーとなった。

トキオ・クマガイ1984年秋冬Ⓒ京都服飾文化研究財団/熊谷登喜夫氏遺贈/林雅之撮影

熊谷登喜夫は1947年、仙台に生まれ、文化服装学院でファッションを学ぶ。在学中に装苑賞、さらに遠藤賞を受賞し、遠藤賞の賞金でパリへ。1ヵ月の予定がパリの魅力に取り付かれ、そのまま滞在。デザイナーのアシスタントをするなど仕事を始めるが、そんな中で得たのが、当時の人気ブランド、イタリアのフィオルッチの仕事。靴のデザインを任されると、世界中にコピー商品が出回るほどのヒットモデルを送り出す。

これが、靴デザイナー熊谷登喜夫を生み出す。

日本においては、ファッションデザイナーとしてデビュー。メンズの「トキオ・バイ・ドモン」の後、1983年、イトキンの支援を得て「トキオ・クマガイ・インターナショナル」を設立。翌84年に代官山にブティックをオープンすると同時にレディスウエアのコレクションを発表。さらに85年、メンズの「トキオ・クマガイ・オム」で東京コレクションに参加。活動拠点は、パリに置いたが、靴は、淺草でも作った。その靴づくりに影響を受けたメーカーもある。

しかし1987年、毎日ファッション大賞を受賞した直後、かねてから得ていた病により逝去。享年40歳だった。

熊谷登喜夫は、1980年代をまさに軽やかに、鮮烈に駆け抜けた靴デザイナーだった。

筆者は、かつて発行されていた「シューフィル」という雑誌に熊谷登喜夫について書いたことがあるが、その時、既に熊谷氏は亡く、アシスタントだったファッションデザイナーの永澤陽一氏、松嶋正樹氏など多くの方に取材してまとめた。その記事を読み返したが、文字を追う目が留まったのは、文化服装学院で教え、取材時には同学院名誉学院長を務めていた小池千枝さんの「登喜夫の服も靴も、カジュアルで生活的で、モダンだった」というコメントだった。

中でも「生活的」という言葉。「トキオ・クマガイ」の靴には、ゴムテープを使ったものが少なからずある。それは、スニーカーが日常的は履物になり、生活がどんどんカジュアルに、活動的になっていく生活を見ていたからではなかったのか。

会場風景Ⓒ京都服飾文化研究財団/福永一夫撮影

本展覧会は、ファンタジー、ユーモア、そしてそんな着眼を含め、靴デザイナー熊谷登喜夫の創造性に直に触れる、またとない機会だ。靴デザイナーとして仕事をする人、靴デザイナーを目指す人、靴を作る人、靴を学び人、そして靴をこよなく愛する人に見て欲しい。

展覧会の概要は、下記にまとめたが、入場は、完全予約制。下記の予約サイトで予約できる。

なお、KCIは、ワコールの出捐、平たく言うと寄付により設立され、服飾に関する文献や資料を収集・保存し、研究・公開する機関であり、特に日本独自のスタイルを確立した日本人デザイナーを世界に発信することを使命とする。熊谷登喜夫に関する所蔵品の多くは、トキオ・クマガイ・インターナショナルが解散する際に寄贈されたものだ。

  • 「熊谷登喜夫:軽やかに時を超えたデザイナー」展 概要
    会  期:2022年1月31日(月)〜6月24日(金)
    開場時間:午前9時30分〜午後5時
    休  館  日:土・日曜日・祝日
    会  場:KCI内 KCIギャラリー
         京都市下京区七条御所ノ内南町103 TEL075-321-9221
    入  場:完全予約制 無料
         予約サイト:https://airrsv.net/kci-gallery/calendar
    出展作品:「トキオ・クマガイ」の靴38点、靴のデザイン画、
         時計など5点、18世紀〜現代までの靴15点、以上合計58点
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