グッチやイヴ・サンローランなど高級ブランドを擁するファッション・コングロマリット、ケリングは、毛皮の使用を禁止している。プラダ・グループやラルフ・ローレンなども同様だ。また、厳格な菜食主義者であるファッションデザイナーのステラ・マッカートニーは、革、またシルクなど動物由来の素材を使用していない。
こうしたことが、牛や豚の皮(スキン)を原料とする革(レザー)も、環境負荷が高くサステナビリティに反するという認識を生んでいるという現状がある。
しかしこの認識は、正しくない。
ケリングなどが使用を禁止しているのは、毛皮、つまりファー。革の使用を禁止しているブランドは、ほぼない。
(一社)日本皮革産業連合会(皮産連)は2022年、ワーキンググループ「TLA(Thinking Leather Action)」を立ち上げ、間違った認識を正し、革がエコでサステナブルであるという情報を、消費者に向けて積極的に発信していくことを決めた。
発信は、SNS、各種媒体。またリーフレットを作成、配布し理解を深めることに活用する。
リーフレットでは、革はなぜ、エコでサステナブルかを四つの柱で解説している。
リーフレットの表紙(左)と裏表紙
①革製品のためだけに、いただく命はない
革の原料である皮は、食肉に伴う副産物。
牛や豚の肉を食すためには、命をいただき、皮を取り除かなければならない。その皮を活用することよって革が製造される。副産物とは、このような意味だ。
しかし同連合会が行った「生活者調査2022」によれば、「皮革/革製品のために動物を殺している」と誤解している人が24%存在し、「“副産物”であること」を知らない人が62%存在するという。こうした実態が、間違った認識の原因になっているようだ。
もし革製品のために牛を飼育したとしたら、肉用牛1頭を飼育するのに要する費用は、83〜134万円(農水省「令和2年肉用牛生産費」より)。これに対して成牛の革1頭分(500デシ換算)の国内取引価格は、2〜5万円。全く採算に合わない。
食肉の副産物としての皮から革が生まれるからこそ、私たちは靴やバッグなどの革製品を愛用できるのだ。
リーフレットより(以下同様)
②革製品を使うと、脱炭素につながる
食肉によってもたらされる皮を革として活用しないと、どうなるか。
国内で畜産によって産出される牛の皮は、年間約100万頭分(2021年)。これを革にして革製品を製造すると、ハンドバッグで769万個、靴で2500万足になる。革製品にしなかったら当然、廃棄することになり、焼却廃棄すると、相当のCO₂が排出されることは、誰でも想像できる。
革を使用せず代替素材を使用するとしたら、人工皮革、もしくはヴィーガンレザーなどと言われる素材になろうが、前者は石油由来の素材。後者にも石油由来のものが少なからずある。当然、環境負荷は高くなる。
また、皮を革にするには鞣しという技術を用いるが、その際に使用する薬剤によって植物性のタンニン鞣しと鉱物性のクロム鞣しに大別される。革製品に使用される革は、圧倒的にクロム鞣しが多く、世界で使用される革の85%を占めている。
そしてクロムと聞いて思い浮かぶのは、有害物質のクロムではないだろうか。
しかし有害なのは、6価クロムであり、皮鞣しに使用されるのは、3価クロム。3価クロムは、土壌に存在し、毒性はない。そればかりか人にとって不可欠な必須ミネラルの一つだ。
ただ、3価クロムを高温で処理すると、6価クロムに変化する。これが、クロムは有害という風潮を生んだ一面もあるが、現在は、焼却しても6価クロムが発生しない技術が開発されている。
このように革は、CO₂排出量の削減につながり、環境負荷も低いのである。
③肉、革製品、化粧品など、動物からいただいた命は、余すことなく活用されている
食肉によって生まれるのは、皮だけではない。例えば骨も、食肉にとっては不要であり、また放血(血抜き)も不可欠な過程だ。こうして生じる皮、骨などから生み出されるのが、コラーゲンやゼラチンだ。コラーゲンは化粧品の重要な成分であり、ゼラチンは食品として馴染み深い。その他、薬のカプセルなど医療分野でも使用されている。
また、鞣しの際に汚泥やスラッジと呼ばれるヘドロのようなものが残る。これをそのまま廃棄すると環境汚染を引き起こすが、汚泥から肥料や道路舗装などに使用されるスラグが製造されている。
食肉にとっては、肉以外は、いわば不要物だが、皮を筆頭に無駄にすることなく活用されている。この事実は、ほとんど知られていないのではないだろうか。
④革製品は長持ち。だから地球にやさしい
きのこ、サボテン、パイナップルなど、植物からつくられた幾つもの素材が、ヴィーガンレザーとして開発され、流通し始めている。
これらの素材と革の物性を比較すると、吸湿性、透湿性、耐屈曲性で革と同等の物性を持つ素材はあるが、引張強度、引裂強度を含めた5つの物性すべて革と同等の素材はないという試験結果が存在する。
またライフサイクルアセスメント(環境負荷を定量的に評価する手法)の観点から考えると、寿命が長い革製品が製造され使用を続け廃棄に至る間に、寿命が短い素材による製品は、製造・使用・廃棄を何回か繰り返すことになるという。つまり、たとえ製造時の環境負荷が小さくても製品寿命が短いと全体では環境負荷が大きくなり、寿命が長い革製品は、環境負荷が少なくなる。
革製品は、地球にやさしいのだ。
リーフレットは、以上が簡潔にまとめられている。
店頭などで消費者に配布したいという小売店などは、その旨、皮産連に連絡すると、リーフレットの提供が受けられる。
4月1日からスタートした令和5年度は、小売店向けTLA説明会開催を計画。また、8月にはサイトのオープンを予定している。
狩猟し肉を取った後、残った皮を革に変えることは、有史以前から営々と続けられてきた営みだ。最古のリサイクルとも言え、適度な塑性と弾性を持ち、保温性、吸湿性、通気性に優れることから、人を寒さや強い風から守り、命を長らえること、暮らしやすさの実現に貢献してきた。それを正しくない認識により退けるのは、非常に残念なことだ。
TLAを一つのきっかけに、革は、環境負荷が低く、サステナブルな素材であることを広めたい。
リーフレットの入手ほか本件についての問い合わせは、(一社)日本皮革産業連合会TEL03-3847-1451まで。