大阪府立西成高校に靴づくりクラブ「NSC」。地域との繋がりを作り、地場産業の再興も。

NSC(Nishinari Highschool Shoe Club)は、大阪府立西成高校の靴づくりクラブだ。昨年、誕生したが、学校公認の正式なクラブ活動。このようなクラブ活動は、他に例はないだろう。

誕生に向けて業界側から動いたのは、靴製造卸代表であると共にエスペランサ靴学院学院長であり、昨年から西成製靴塾塾長も務める大山一哲さんだ。

「自分は、西成で靴メーカーを営む家に生まれ、靴工場を遊び場に育ち、靴を仕事にして充実した毎日を送っています。しかし今、西成の靴産業は衰退しています。また格差社会が進行し毎日の生活にも窮する状況が、この西成にもあります。西成で学ぶ生徒たちがクラブ活動を通して西成を形づくってきた靴づくりを体験すれば、地域と繋がった仕事の道を開き、靴産業の再興にも繋がります」(大山一哲さん)。

西成高校は、靴づくりクラブの発足に向けて積極的に動いた。

昨年7月、オリエンテーションとワークショップを開催。9月には第2回のワークショップを行った。ワークショップでは、サンダルを作った。

クラブ名は「西成高校靴づくり部=Nishinari Highschool Shoe Club」に頭文字を取って「NSC」に決定。11月の文化祭でロゴを募集したところ、30点以上の応募があり、生徒たちの関心の高さを思わせた。

そして11月末、NSCの活動が始動した。

正式な部員は、3名。活動の場所は、西成製靴塾。

 

同塾は、西成区北西部まちづくり委員会による設立。1999年6月に現在の名称で、同区内長橋小学校の生涯学習ルーム事業として開校。一度の移転を経て、2019年4月から鶴見橋商店街7番街にある。活動目的は、地場産業である製靴業の再興。それに製靴、また製革といった地場産業を通して地域の歴史を学ぶ場を提供し地域への理解を深めるという社会教育も担っている。

部活動は、西成の歴史のレクチャーから始まった。講師は、西成製靴塾代表の寺本良弘さん。製靴業がなぜ、西成の地場産業となったのか。その歴史的背景。また製靴には不可欠な製革産業との繋がりや地理的背景などが語られた。

次にNSCの活動の先に広がっているのは、どんな世界か。登り詰めれば、世界を舞台にした活躍も可能であること。そして実際の靴づくりの工程などを学んだ。

なぜ、NSCに入部したのか、部員に聞いてみた。

「元々、ものづくりが好き。ワークショップに参加して、やっぱりおもしろい。やりたいと思った」。 「スニーカーが好き。お気に入りが、履いていると傷んだり、汚れてきて悲しい。手入れやリペアできれいになるのを知って、技術ってすごい。自分で作れるようになりたいと思った」。 こんな答えが返って来た。

靴づくりの実際を教えるのは、大山塾長自ら。また西成製靴塾を活動の場としている職人もサポートに当たっている。

SNSに上げられた型紙の製作や裁断などの様子を見ると、高校生がやるな!といった印象。3月には、革靴一足が完成するという。

  • 大阪府教育庁が地域に根ざした教育活動を打ち出す

西成高校では、来年度から靴づくりを正規授業に取り入れて行くという。

これは、大阪府の政策によるものと思われる。

産経新聞が2月10日付で報道したところによると、大阪府教育庁は「令和5年度から、地域に根ざした教育活動を通じて生徒の社会性を育む取り組みを府立高校2校で始める」という。

その2校のうちの一つが、西成高校。

具体的には「地場産業に携わる地域の職人らを外部講師に招き、ものづくりを体験する授業などを想定。授業の運営は教員が行うが、前段階としての講師の開拓や調整は新たに採用する『地域連携コーディネーター』が担う。地域と学校の窓口となる地域連携室に常駐する。5年度は、先行実施として単発の授業や部活動などの形で導入し、6年度から学校独自の年間を通じた教科などとしてカリキュラムに取り入れていく」としている。

20年以上前のことだが、筆者がフランスの靴産地ロマンを訪れた際、リセ、つまり高等学校に案内されたが、そこには製靴を学ぶコースがあり、最新のCAD/CAMが導入されていた。その操作は、同じ機器を使っている地元靴メーカーの担当スタッフが学校に出向き教えていた。

フランス、またドイツでも、日本の高校に当たる教育課程への進学は、非常に重要だ。大学に進学するための高校と職業に就くことを目的とした職業高校に分かれ、その選択をしなければならないからだ。また、技術者、つまりは職人の養成については、ドイツには靴ではよく知られた徒弟となり修業を重ねるマイスター制度があり、フランスには、コンパニオンと通称されるコンパニオン・デュ・ドゥヴォワール・エ・デュ・ツール・ド・フランスがある。やはり徒弟制度による技術者養成制度だが、フランス国外を含め各地を巡礼のように巡回し修業を積むことに特徴がある。

日本でも服飾デザイン科など職業を念頭に置いた科が高校に設けられるようになっているが、産業界や地域との結び付きが弱いように見える。大阪府教育庁の今回の政策の背景には「社会性を身に付けないまま地域で就労した高校生が職場で孤立したり、早期離職するケースが全国的に多い実態がある」(産経新聞)とのことだが、職業教育を教育制度の中に明確に位置づけ、地場産業や産業界そのものと連携することが、生徒に明確で具体的な目的を与え、それが延いては産業の維持・発展を実現することに繋がるのではないだろうか。

NSCが、そうした流れへの先駆けとなることを望んでやまない。

さて、NSC部員が完成させた靴を実際に見られる機会がある。3月22〜28日、阪急メンズ東京(東京・有楽町)で開催される「SHOES FAIR 2023SS 卒業制作展示」だ。消費者が若手靴職人に触れる機会を増やすことによって靴業界を盛り上げることを目的とし、靴学校の卒業制作を展示する。参加する靴学校は、台東分校として知られる都立城東職業能力開発センター台東分校製くつ科、ヒコ・みづのジュエリーカレッジ、文化服装学院、エスペランサ靴学院、それにNSCだ。また靴磨きにもスポットを当て、靴クリームを初めとする靴用品販売のR&Dと日本皮革製品メンテナンス協会も参加する。メンテナンス協会は、靴磨きや靴修理職人を育成するためのセミナーや検定などを実施する一般社団法人だ。

会場は、同店5階のビスポークサロンだ。

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