(株)ジー・エム・ティー(東京・渋谷、横瀬秀明社長)が、イタリアの高級婦人靴「カサデイ」の輸入販売を始めた。その手始めに大阪・難波、都内・玉川高島屋、日本橋高島屋、そして6月12〜24日には銀座のGINZA SIXにおいてポップアップショップを行った。
「カサデイ」は、イタリアの婦人靴メーカー、カサデイ社のブランド。エミリア・ロマーニャ州サンマウロパスコリに所在し、創業は1958年。サンマウロパスコリは、例えばセルジオ・ロッシなど婦人高級靴の産地として知られている。「カサデイ」もその一画を構成するが、創業まもなく頭角を現し、’70年代にフランス、ドイツなど近隣諸国に拡大。’90年代に至るとロシアやアラブ諸国への輸出で伸ばした。現在もモスクワやサウジアラビアなどにショップやコーナーを持ち、年間10万足を製造しているという。
日本では、’90年代にセレクトショップが輸入したが、今回のような本格的な展開は初めて。ポップアップショップの展開に合わせて、カサデイ社ゼネラルマネージャーのアリアナ・カサデイさんが来日した。
アリアナさんは、創業者の孫。父親のチェーザレ・カサデイ氏は、マーケティングなどで手腕を発揮し成長を牽引し、現在もクリエイティブディレクターを務めている。
アリアナさんに現状などを聞いた。
−−年間10万足製造は評価に値すると思うが、その実績の要因は、どこにあるのか。
アリアナ・カサデイ(以下、A.C) メイド・イン・イタリー、つまりクラフトマンシップ、それと新しいことに常に挑戦すること。これは、創業者の祖父のポリシーであり、父へ、そして私へと脈々と受け継がれている。
その具体例が、“ブレード”。革巻きの根元と剣の刃(blade=ブレード)のようなステンレス製の軸が合体したヒールだが、革を扱う繊細な手わざとエンジニアリングに属する金属加工技術の融合によって生み出された。発表から10年経つが、その美しさと履き易さでファンが広がっている。
−−しかしコロナ禍以降、状況が変化しているのでは。
A.C 受注方法が大きく変化した。見本市は、特に高級品については、コロナ禍以前から力を失っており、現在は、ショールームも力を失っている。そこで着手したのが、eコマース。最初は、思ったような手応えがなかったが、データ解析をしてみたところ、“ブレード”という言葉が数多く検索されていることが分かった。消費者に直接、訴えかける手段としてデジタルが非常に有効であることが分かった。
現在は、NFT(非代替性トークン)を使ったサイトの構築に取り組んでいる。メタバースでさまざまな体験をし、自分でデザインを加えたブレードが、NFTで購入できる。そのようなことを構想しているが、同時にデジタルパスポートを発行し、トレーサビリティを実現しようとしている。
−−サステナビリティの実現は、欠かせない課題だが。
A.C デジタルパスポートの発行は、サステナビリティにとって非常に重要だ。製品面では、スペイン・イビサ島の自然素材のラフィアを使ったバッグメーカーと製品づくりに取り組んでいる。これも、サステナビリティに叶う施策だ。
−−日本市場については。
A.C 日本は、’90年代に父に連れられて何度か訪れているが、マーケットとして本格的に取り組むのは初めて。一朝一夕には行かない。じっくりとステップバイステップで成果を出したい。
ジー・エム・ティーは、「トリッカーズ」「ジャラン・スリウァヤ」「G.H.バス」、それに別会社での展開となるが「パラブーツ」と、トラッド系メンズを主力に実績を上げている。レディス、特に高級ゾーンについては2019年に開始した「レネ・カオヴィラ」があるのみだ。
高級婦人靴は、百貨店のラグジュアリーゾーンが好調だ。但し、その売上げを牽引しているのは、LVMHなどファッションコングロマリットとも言える巨大グループ傘下のブランド。靴メーカーブランドは、むしろ厳しい状況にある。
そのような状況下で新たに「カサデイ」を加えた訳だが、どのような見方によるものなのか。
「百貨店婦人靴の売上げの根幹を形成しているのは、巨大グループ傘下総合ブランドのシューズブランドであることは、紛れもない事実であり、その半分近くをインバウンドが占めている。さらに効率化を図るためにこうしたブランドのショップ化を拡大する傾向もあり、その結果、靴デザイナーや靴メーカーのブランドが圧迫されつつある。しかし、インバウンドの顧客層の興味が、総合ブランドの靴、つまりブランド名よりその靴の背景にある哲学や歴史に移っていると予兆が見て取れる。
見ているのは、ここ。売上げとして明らかに顕在化するには時間が掛かるが、それまでは我慢。ポップアップショップを繰り返し行いながら認知度を高め、いずれはブランドの哲学を伝えられる環境をつくりたいと考えている」(横瀬秀明社長)。