BOOKREVIEW
Posted on 2012/03/01
ついに出た!靴のヴィジュアルブック日本語版
ジョナサン・ウォルフォード著
武田裕子訳
欧米では、靴についてのたくさんの本が出版されている。靴の歴史本、デザイナーの作品集、ヒールにスポットを当てたものetc、「SHOES」といタイトルのものが、内容、判型、厚さも様々で何冊もあったりする。たいていが美しい写真を多く掲載しており、見るだけで楽しい。しかし、何が書いてあるのか、その詳細を読みたい。
それが実現した。
ジョナサン・ウォルフォード著『SHOES A-Z』の翻訳本『シューズA-Z』が出版された。
ジョナサン・ウォルフォードは、カナダ・トロントのバータ靴博物館のキュレーターを長く務めた人物。
バータ靴博物館は、靴メーカーのバータ社が創設した博物館。4500年以上前から現代に至るまで1万点以上を所蔵し常設展示している。そのキュレーターであるから、靴についての知識、幾ばくたりや。それをデザイナー、ブランド、メーカー、小売店名で抽出し、アルファベット順にまとめたのが、本書だ。
掲載件数は500以上。マノロやルブタンは言うまでもなく、最近注目のデザイナーではニコラス・カークウッド、ニコール・ブランデージ。ハイファッションだけでなくボリュームゾーンをカバーするブランド、メーカー、またコンフォート系、地域で見ると、アメリカのブランドや小売店が豊富だ。
例えばデルマンやアイ・ミラー。いずれも20世紀半ばにニューヨークで活躍した靴小売店で、デルマンは、ロジェ・ヴィヴィエを才能を見いだし、アイ・ミラーは、アンディ・ウォーホルを広告に起用した。
ロジェ・ヴィヴィエって、誰?という人は、『シューズA-Z』で当たるべし。
目次の横にカタカナの掲載リストがあるので、スペルが分からなくても当たれる。
靴を学ぶ人必携。そうでなくても美しい写真を見ながら拾い読みすれば、靴通になれる。
ガイアブックス刊。発売元 産調出版。235ページ、ハードカバー。定価2800円+消費税。
英国日本人靴職人世界がミステリーに
本城雅人著
ジャーミン・ストリートのビスポーク靴店、S&Cグッドマン。その店主、斎藤良一が、この小説の主人公。斎藤は、ロンドン郊外の狭い工房で靴の注文を取っては作りという生活を8年間続け資金を貯めて、ジャーミンに工房を移した。店名のS&Cの「C」とは、共同経営者のサイモン・コールのこと。しかし形式上だけ。サイモンは英国でトップクラスの底付けの腕を持ち、グッドマンを設立する際に有名店から引く抜いたのだが、ドラッグの常習者で、かつ重度のアルコール依存症だ。他に英国人職人のトニーと日本人の女性見習い、美樹。
冒頭の舞台設定を読んだだけで、ロンドンの日本人靴職人事情を知る者は、これはあの人、こっちは彼のことかも…と、実在の人物を想像してしまう。
そして、靴の蘊蓄がスゴイ。痛いの寸前で快適に変わるフィット、本書ではロシアン・レインディアとされているが、伝説の革、ロシアン・カーフ、ビスポーク靴は中物に練りコルクではなくフェルト布を使う理由等々。靴に全く興味のない人は用語解説がないと読めないくらい、靴が語られる。読み終えたら、相当な靴知識が身につくこと請け合いだ。
いや、いや、本書はミステリー小説。事件は、斎藤の初めての顧客に木型から削って作った靴がグッドマンに持ち込まれたことから始まる。その靴は、斎藤が作ったものに酷似していたが、斎藤が作ったものではなく、履き古した感じまで似せて作ったものだった。
一体誰が、どうして…。
そしてもう一人の主人公、若き靴職人、榎本智哉が登場する。
幻冬舎刊。192×136㎜、402ページ。定価1600円+消費税。