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Posted on 2013/6/28
アベノミクスによる円安は、輸出型企業の決算を好転させた。しかしアベノミクスには、企業収益だけでなく、日本経済全体を外需シフトに導こうという狙いもある。
靴業界は、どうか。
全日本履物団体協議会による「日本の履物統計」によると、2011年革靴生産量は、2337万足。このうち輸出は、25万2000足。生産に占める輸出シェアは、1%。履物全体(サンダル含む)で見ても、生産量7180万500足、輸出149万2000足、輸出シェアは2%過ぎない。
靴は、完全に内需型だ。
アベノミクスの評価如何に関わらず、前年実績をクリアする売上げが難しくなっている中、前記のデータが示すのは、“活路は外に有り”ということだ。
ここ数年、まだ実績というところまではいかないが、海外市場開拓に挑み、成果を出しつつある。
そんな事例を、短期連載で紹介したい。
■パッソ
神戸の婦人靴メーカー、パッソ(株)は、技術力で定評がある。その意味は、単に作りがいいということではなく、デザイン表現の巧さ、デザインを実現するための作りの工夫、靴にニュアンスを与える仕上げ技術等々、要するに技術力に裏打ちされた創造性が評価されている。
PB「NU(ヌゥ)」は、こうしたパッソの特性をいかんなく発揮しようというブランドだ。
コンセプトは、「no border」「non age」「uni sex」「univesal」。
国境、年齢、性別、あらゆる境界を越え、全世界、万人に向けた物づくりを。そんな意図が読み取れる。
その「NU」が、海外市場への挑戦をスタートしたのは、2010年のこと。その舞台として選んだのは、経済産業省がミカムに設置するミカム・ジャパンブースだ。
「以前から情報収集などの目的でヨーロッパを訪れ、有力靴ブランドを見ていましたが、“NU”は、それらと競い合えると判断していました。それを実際に確かめたくて、ジャパンブースに注目しました」(同社企画部長、高風優一さん)。
マーケティング・リサーチの場としてミカム・ジャパンブースを活用したということだが、プレスなどからの注目に留まらず、イスラエルの有力セレクトショップから受注した。
「元々、自分たちの本格的舞台はパリだと考えていましたが、ジャパンブースで得た結果が、パリで世界に向けて本格スタートを切る裏付けになりました」(同氏)。
ミカムが終了すると、パリの展示会出展に向けて動き出した。
そして昨年9月、パリで開催の靴の合同展示会「The Box Shoes」出展を果たした。
同展は、雑貨合同展示会として知られるプルミエール・クラスと同じオーガナイザーの主催。会期はチュイルリー公園の特設テントで開催されるセカンド・セッションとリンクし、会場も至近。プルミエール・クラス来場者の回遊が期待できた。続く今年3月は、「The Box Shoes」が雑貨合同展の「The Box」と一体化されたため、「The Box」に出展。「The Box」もプルミエール・クラスと同じオーガナイザーによるもので、会場は同地区で、会期もリンクしている。
「イスラエルのセレクトショップは継続して取引がありますが、展示会そのものの集客という問題もあり、新規の開拓は簡単ではなさそう。しかし出展は継続こそが力になるので、今後もパリを舞台に続けて行きます」(同氏)。
「NU」は、いつも意欲的なデザインで評価はされるが、「オーダーに繋げるには、スタンダードなラインも必要」と、出展してこそのマーチャンダイジング力も蓄積しつつある。
●パッソ(株)=兵庫県神戸市兵庫区和田山通1-2-25 A-2F TEL078-652-4301
http://passo-nu.com/
■ヴァーブクリエーション
(株)ヴァーブクリエーション(東京・台東区浅草、中川宏明社長)は。紳士・婦人靴メーカー。中川社長が個人営業で靴メーカーを始めてから10年が経つが、会社設立は2008年。まだ若いメーカーだ。
製造の中心は、アパレル・ブランドを中心としたOEM(相手先ブランドによる生産)だが、創業当初から目標は、自社ブランドの製造販売。そしてそれを拡充する一つの方策として選んだのが、海外市場への挑戦だ。
本腰で臨んだのが、経済産業省がミラノで開催の国際靴見本市、ミカムに設置するジャパンブースへの出展。2012年3月のことだ。それ以前にも、パリのプルミエール・クラス(ファースト・セッションと呼ばれる毎年1月と7月に開催のバージョン)に出展したことがあるが、ミカム・ジャパンブース出展以降、昨年は8月と今年2月に、米・ラスベガスで開催の靴見本市、FN PLATFORMにもと、出展を拡大している。
そもそもなぜ、海外市場に挑戦するのか。
同社ディレクターの猪俣工さんは、次のように話す。
「国内のセレクトショップは、PB(プライベート・ブランド)による展開が靴においても主流になって来ており、その結果、受注数が頭打ちになって来ている。これを海外市場での受注により嵩上げしたい。そしてこれを実現するには、海外で通用する価格ライン、またデザインなどを知る必要があります。ミカム出展には、マーケット調査の意味合いもありました」。
出展ブランドは、「クオリス」「セッシュー」。「クオリス」は、グッドイヤー製法を中心としたクオリティ志向のブランド。メンズが中心で小売価格は国内で5万円以上、「セッシュー」はモード志向を特徴とする。
しかし、ミカム2回目の出展では、「U.(ユードット)」ブランドがメインとなった。
「U.」は、遊び心あふれるカジュアル・ラインのブランドとして元々あったが、裏無しの素足で履けるデザインに絞り込み、筒型のパッケージ(靴箱)をセットした。つまり、イージー・ウエアリングの雑貨的面白さのあるブランドへとリモデルしたのだ。
そしてその結果、FOB90ユーロ前後で打ち出せる価格となった。
つまり、これがマーケット・リサーチの結果という訳だ。
そして、この商品政策によって、オーダーが付いて来た。現在、半期で350〜400足をロシアのセレクトショップを中心に輸出している。
また、これだけの数がまとまるには、ショールームの力もある。ミカム初回出展時に繋がったミラノのショールームが数をまとめることに貢献している。
「見本市出展は、小売店から直接受注するだけでなく、現地の流通にマッチしたパートナーにコンタクトできるということもあります。米国市場は、ディストリビューターと繋がる必要がありそうなので、ラスベガスへの出展は、それを目的としています」(猪俣さん)。
また円安に転じたことにより、ミラノのショールームからは価格を下げれば、受注数がもっと増えるという指摘もあると言う、
「それは確実だと思うのですが、下げることによって、オーダーしてくれる小売店のクラスが落ちることもあり得ます。受注増は価格だけではないので、PRの強化、つまりプレス対策などを強化することによって、実績を上げて行きたいと考えています」(同)。
●(株)ヴァーブクリエーション=東京都台東区浅草6-23-1 TEL03-3872-5715
http://www.u-dot.jp/