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Posted on 2012/04/03
ジャパンシューズの認知進む
3月4~7日、ミラノで靴見本市ミカムが開催された。ミカムは、靴の国イタリアを中心に世界中から1500社以上が出展する国際的な見本市。靴のファッショントレンドの決定に大きな影響力を持っている。
そこに日本の革靴企業が集まるジャパンブースが設置されている。日本の革靴の海外市場進出を応援するために、経済産業省が設置したもので、この3月で8回目となる。
出展したのは、日本のトラッドを代表するブランド「リーガル」のリーガルコーポレーション、丁寧な作りのウエルトシューズで定評のあるビナセーコー、日本の婦人靴メーカーを代表する存在のシャミオールなど12社だが、この内、7社が受注。しかも、複数の海外企業から成約した出展者もあり、成約件数は、12件に及んだ。
これは、快挙だ。品質、デザインへの評価は高いが、日本製革靴は価格が高いため、それがネックとなり、これまでの出展では毎回、数件の受注に留まっていたからだ。
特に新規出展者が健闘した。
バルカナイズ製法のレザー・スニーカー「スピングル・ムーブ」は、アメリカの小売チェーンから受注。同ブランドは以前からヨーロッパのいくつかの展示会に出展を重ね、1月にフィレンツェで行われたメンズ・ファッションの見本市、ピッティ・ウォモにも出展したばかり。こうした継続的取り組みが実を結んだ形だ。また、浅草の新進メーカー、ヴァーブクリエイションは、パリのセレクトショップから受注した他、イタリアの紳士靴メーカーからコラボレーションの打診もあった。この他、ロサンジェルスにショップを持つ、婦人靴の「B by Aperire」(エニマドンナ)は、アイルランドの小売店から受注、手染め紳士靴の「Hiroki Imai」(又一コーポレーション)は国内の小売店数社から受注した他、ニューヨークのバーニーズから引き合いがあった。
継続出展者で最も成果を上げたのが、ビッグマウンテン。イタリアとアメリカから5社から受注した。デザイナーで社長の大山一哲さんは、「友禅染めの革による靴を世界にアピールしたくて出展。今回で3回目だが、1回目で和テイストに対しての反応が良いことを確信したので、2回目靴のデザインそのものに和を取り入れたところ、草履デザインのサンダルで初めて受注。これに意を得て、今回は足袋スタイルのブーツなどを出品した。またノックダウン手法を一部に取り入れ、価格を下げる努力もした。これが結果に繋がった」と言う。
この他、コンフォート系のCNグローバルの「シグロ」は中国、また外反母趾の矯正に効果のある靴を出品する、叶うやは、イタリアの小売店から受注した。
ジャパンブース出展を管轄する経済産業省紙業服飾品課の坂本敏幸課長は、ミカム前のインタビューで「来場者は、2回、3回とブースを訪れ、継続出展していることで信用し発注するようだ。見本市出展は、まさに継続こそが力。当課も粘り強く、継続して支援する」と語ったが、まさにその通りの結果になった。
ミカム・ジャパンブースを舞台に、ジャパンシューズの世界認知が進んでいるようだ。
平成24年度も、ミカム出展事業継続が決定しており、9月展に向けた出展者募集が、例年通りなら5月には公示される。
ミカム4号館のジャパンブース
エニマドンナの「B by Aperire」
「ITTETSU OYAMA」の和テイスト・ライン
手染めの「HIROKI IMAI」
好評だった「SPINGLE MOVE」
Verb Creationの「sessue」
4月19日には都内・吉祥寺にもオープン
3月30日、大丸心斎橋店の「カンペール」が、「カンペール・トゥギャザー」ショップになった。
「トゥギャザー」は、カンペールが推し進めるコラボレーション・コンセプト。ショップと靴のデザインで、国際的に活躍する著名デザイナーとコラボレーションし、カンペールのバリューを高め、カンペールが創り上げようとしている世界をより鮮明に伝えようとするものだ。
心斎橋店のショップ・デザインは、佐藤オオキ氏のNendo。佐藤氏は、1977年、トロント生まれ。早稲田大学建築学科を卒業後、2002年にデザイン・オフィス「Nendo」を立ち上げ、建築、インテリア、プロダクト、またイベント、グラフィックと幅広く活躍。カルティエ、エルメス、プーマなど、ヨーロッパの企業のために多くの仕事をし、雑誌「Wallpaper」の2012年デザイナー賞にも選ばれた。
佐藤氏は、バルセロナで開催のファッション合同展「ブレッド&バター」のカンペール・ブースのデザインを手掛けたことがあるが、「カンペールは、より早く走るためのランニングシューズや履いていることがステイタスになるようなシューズではなく、単純に歩くことを楽しむためのシューズ」という捉え方から、店内に靴が浮かび、靴自体が散歩しているようなデザインのショップを創り出した。
ディスプレイ・スタンドは細いチューブと足の形をした台との組み合わせなので、スタンドがほんとど見えず、靴が宙に浮いているように見える。また壁をつたうように天井から吊り下げられた靴は、空間を浮遊しているように見え、かつアングルが少しづつ変化させてあり、入店すると店内を一巡できるような導線を創り出している。
もちろん「トゥギャザー」コンセプトの靴も扱う。2008年のスタート以来、コラボレーションならではのユニークなデザインの靴を生み出して来たが、今春夏は、世界が注目する気鋭のファッション・デザイナー、ベルンハルト・ウィルヘルムとロマン・クレメール、それにプロダクト・デザイナーのジャスパー・モリソン。また、「Sinousa」というライン名で、スペインのデザイナー、シビラがデザインしたシューズもある。
「トゥギャザー」コンセプトのショップは、関西では初めて。東京には表参道店と代官山店があるが、4月19日に新たに吉祥寺のファッションビル「コピス吉祥寺」A館1階にオープンする。ショップ・デザインは、ポストモダンで一世を風靡したイタリア・デザイン界の巨匠、ミケーレ・デ・ルッキ。どんなシューストアが誕生するのか楽しみだ。
それともう一つ、「トゥギャザー」コンセプトの靴は、これまで限定されたショップでしか販売されていなかったが、今シーズンから「カンペール」ショップ全店での取り扱いが始まった。
どんどん広がる「カンペール・トゥギャザー」の世界に注目だ。
カンペール・トゥギャザー大丸心斎橋店
写真:Koji Fujii (Nacasa & Partners Inc.)
トゥギャザー・ベルンハルト・ウィルヘルム
トゥギャザー・ロマン・クレメール
3月の来場者は2万3150人
GDSは、ドイツのデュッセルドルフで開催される国際靴見本市。なぜドイツで靴見本市なのかと言えば、ヨーロッパの中でドイツが最も大きな市場だからだ。
さて3月14~16日、2012年秋冬シーズンに向けたGDSが開催された。出展者は、1%とわずかではあるが前回より増え860社。併催のグルーバルシューズと合わせると約1200社だ。
グルーバルシューズは、OEM(相手先ブランドによる生産)をメインとした発展途上国の靴メーカーを中心とした見本市。これまでは見本市会場直結の地下鉄駅を挟んで反対側のホールで開催されていたが、今回はGDSと同一エリアとなり、より連動性が増した。
来場者は、3日間合計でグローバルシューズと合わせ、2万3150人だった。前年との増減は公表していないが、やや減少したようだ。
GDSディレクターのクリスティン・ドーテルモーザーさんは、GDSに限らず減少傾向にある見本市来場者について、「オーダーの場としての見本市の意味性が薄れつつあるのは確かだと思うが、見本市の役割は受発注だけでなく、情報収集の場、ミーティング・ポイントとして非常に重要。GDSは、独自編集の的確トレンド情報の発信などによって、魅力ある見本市づくりに努めている」と語った。
では、出展者は、どのように受け止めているのだろうか。
「我々にとって、GDSは非常に重要」と言ったのは、ドイツの靴メーカー、ガボールのプレス担当者。
ガボールは、日本では婦人靴ブランドとして認知されているが、子ども靴、バッグ、また「camel active」「snipe」ブランドを傘下に納め、さらに昨年、スリッパのライセンスを取得し「ガボール・ホーム」でホーム・フットウエアの展開も始めた。そして年間2億8850万ユーロを売上げ、その51%は輸出と言う。
「重要」の理由は、この輸出にあった。「自社のショールームではコレクションの一部しか見せられない。膨大なコレクションの全容を海外の顧客にプレゼンテーションする場として、GDSは欠かせない」という訳だ。
ドイツ靴メーカーの国際化は、かなり進んでいるようだ。その他にも、今回、デュッセルドルフの街で気付いたのが「タマリス(Tamaris)」という婦人靴ショップ。中価格で品質が悪くないのが着目した理由だが、GDSに出展している。ブースを取材してみると「タマリス」を製造販売するのは、ヴォルトマン・グループ。フランチャイズ展開を進め、ショップ数は180店舗。グループ全体の年間売上げは9億5000万ユーロ、その52%が輸出という企業だった。
ドイツ以外の出展者では、スペインの「チエ・ミハラ」。靴のファッションブランドとして世界的に認知されているが、その輸出担当者は「我々にとって最も重要な展示会は、ミカムだが、GDSも悪くない。新規のコンタクトは少ないが、ドイツより北の国々の顧客が、ここでオーダーシートを書く」。
GDSは、ドイツ国内の出展者にとっては輸出、海外の出展者にとっては、北ヨーロッパの顧客とコンタクトする窓口になっているようだ。
GDSのノース・エントランス付近
トレンド提案エリア「TRENDS INN」
ヴォルトマン・グループのブース
「ガボール」2012AW新作
輸出は金額・数量共に順調に回復
3月のミカムの来場者数は、3万6049人。前年同期と比較すると、7.12%のダウン。来場者数から見ると、低調だったと言える。
イタリア以外と国内を比較すると、前者が1万8687人、後者が1万7362人。前年同期比は、国外4.59%減、イタリア国内が9.68%減。国内の落ち込みが目立っている。
周知の通り、イタリアは債務問題を抱えており、その影響で国内市場は停滞している。それが来場者にも出た格好だ。
また出展者は、1560社、そのうち海外が609社だった。
主催者は出展者の増減は発表していないが、過去のプレスリリースによると、2011年3月が1623社、海外607社、同9月が1595社、海外582社となっている。
これと比較すると、出展者も漸減傾向にあることが分かるが、逆に海外出展者は、わずかだが増えている。
ミカムを主催するのは、イタリア製靴工業会。出展者はその会員というのが基本だが、海外=アウトサイダーの出展が増加を示し、また最近、国内の有力メーカーが出展を取り止めるケースも見られる。ミカムという見本市の変質を思わせ、興味深い。
さてミカムは、このような状況だったが、イタリア靴産業は、リーマン・ショック後の落ち込みから回復している。
2011年のイタリアの靴生産(別表「イタリアの靴産業」参照)は、金額、数量ともに伸びている。またイタリアは生産の大半を輸出しているが、輸出は、金額で前年比12.2%と二ケタ増を達成した。
ここで注意したいのは、輸出が生産を上回っていることだ。これは再輸出、つまりイタリア以外の第三国で生産したものを輸入し再び輸出した製品を含んでいるということ。“Made in Italy”はイタリア製品にとって一種のブランドだが、イタリア以外で製造されたイタリア物があるということだ。それも2010年は、輸出が生産を上回っているのは数量だけだったが、2011年は金額も上回っている。靴の国イタリアも、製造コストの安い第三国に製造を移すところが出て来ており、その状況が進んでいるということだ。
次に輸出相手国別(別表「2011年イタリアの靴輸出」参照)の状況を見てみると、1~11月のデータだが、金額ではスペインを除き、軒並み増加している。特に伸び率が高いのは、EU諸国ではドイツ。8億6500万ユーロ・354万足で相手国中2位と、ベース数字が高いにも関わらず、金額24.4%増・数量8.8%増という高い伸びとなっている。欧州諸国では、ドイツに次ぐ伸びを示したのがスイス。スイスはEUには加盟しておらず、ユーロ危機への関わりはない。
その他、相手国中最も高い伸び率を示したのが、が金額84.6%増・数量57.8%の中国。輸出金額は1位のフランスの10分の1以下と小さいが、著しい伸びだ。また、旧社会主義圏のポーランド、ウクライナも金額・数量共に20%以上の伸びを示しており、消費市場としての発展が注目される。
では日本はと言うと、金額20.1%増・数量16.9%増。金額、数量共に2ケタ増を示したのは、先進国では日本だけだ。円高を背景に輸入靴シフトが進んでいるを表していると言えるが、リーマン・ショックが起こった2008年は金額15.0%減・数量24.2%減と大幅に落としており、リーマン・ショック前のレベルで戻ったと言った方が適切だ。また平均輸入単価は、2008年=64.4ユーロ、09年57.8ユーロ、10年=60.7円、そして2011年=61.7ユーロという推移。08円よりもまだ3ユーロ強低いが、単価面も、09年を底に回復して来ている。
ミカムが注目される所以は、靴のトレンドの打ち出しにあるが、2012年秋冬トレンドは、来月、レポートする。
イタリアの靴産業
2010 | 2011 | 伸び率 | ||
生産 | 金額 単位:百万ユーロ 数量 単位:百万足 |
6755.86 202.5 |
7415.47 207.4 |
4.8% 2.4% |
輸出 (再輸出含む) |
金額 単位:百万ユーロ 数量 単位:百万足 |
6611.57 221.4 |
6755.86 228.8 |
12.2% 3.4% |
輸入 (輸入出含む) |
金額 単位:百万ユーロ 数量 単位:百万足 |
3703.26 355 |
4076.88 360.9 |
10.1% 1.6% |
企業数(社) | 5804 | 5606 | -3.4% | |
雇用者数(人) | 80925 | 80925 | 1% |
※ANCI(イタリア靴工業会)推定値
2011年イタリアの靴輸出 輸出相手国別(2011年1~11月)
国名 | 金額 (百万ユーロ) |
数量 (千足) |
前年比伸び率(%) | |
金額 | 数量 | |||
フランス | 1,103.48_ | 38,910_ | 11.6_ | 2.4_ |
ドイツ | 865.50_ | 35,472_ | 24.4_ | 8.8_ |
米国 | 636.18_ | 11,324_ | 14.0_ | 2.8_ |
スイス | 491.48_ | 10,335_ | 17.2_ | 8.5_ |
ロシア | 400.96_ | 6,398_ | 19.9_ | 15.2_ |
英国 | 400.65_ | 13,602_ | 4.4_ | -7.2_ |
スペイン | 283.61_ | 11,097_ | -0.7_ | -7.5_ |
オランダ | 272.39_ | 9,917_ | 14.3_ | 9.4_ |
ベルギー | 262.49_ | 7,491_ | 4.9_ | 6.1_ |
日本 | 176.93_ | 2,866_ | 20.1_ | 16.9_ |
中国 | 93.08_ | 1,111_ | 84.6_ | 57.8_ |
ポーランド | 92.93_ | 3,540_ | 20.8_ | 26.0_ |
ウクライナ | 78.65_ | 994_ | 26.7_ | 27.4_ |
ミカムが開催されたミラノ郊外のロー見本市会場
ホールの内部。8つのホールを使って開催される。