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Posted on 2012/11/19
パリ展示会で披露した作品が話題!
コンセプト「一枚の革」から生まれたイノベーティブな造形美
6月にパリで行われたファッション見本市WHO’S NEXT Prêt-à-Porter Parisでのこと。この見本市、メンズ・ファッションのWHO’S NEXTと婦人服の Prêt-à-Porter Parisが合体、6つのカテゴリーから成る新しい見本市に生まれ変わったのだが、その靴ゾーンMESS AROUNDに、ブロガーが選んだ期待の靴デザイナー、つまり新人デザイナーの招待エリアを設けられていた。
そこに選ばれた一人が、斉藤愛美さん。
2011年にオランダのデザインスクールArtezを卒業したばかりのまさしく新人。選ばれた理由は、その卒業制作。ソールとヒールが一枚の革でつくられ、ヒールに変位する流線が美しい造形的な作品だ。
どのようにして作品が生まれたのか、斉藤さんに聞いた。
「最初の発想は、2010年に参加したカンペールのワークショップでした。10日間で、そこにある素材、道具を使って靴を作るというもの。すべてが限られていました。
その状況と、自分が学生時代を通して抱き続けて来た“一枚の靴”というコンセプトが組み合わさったところから生まれました。
“一枚の靴”とは、服飾研究家の深井晃子さんの著書『ジャポニズムファッション-海を渡ったキモノ」からインスピレーションを得たコンセプトです。
西洋の服は、人が離れても(着ていなくても)人の形をしていいる。しかし日本の服=キモノは、人が離れると人の形をしていない。つまり一枚の布。それを洋服で表現しているのが三宅一生さんですが、靴で表現している人はいないなと思い、“一枚の靴”というコンセプトが生まれました。
それでアッパーや底周りを、一つの素材で作ることをに取り組んでいましたが、素材はメタルなどの工業的なもの、また卒業制作では3Dキャドなど最新テクノロジーを使うことを考えていました。
でも、中国の靴工場を訪れる機会があり、靴産業の現実を見て考えが変わりました。私の目には安物に見える素材が、一瞬で靴の形になり、積み上げられて行く。そこから目に留まったものを手に取った時、価値があるとは、どういうことなのかという問いが沸いて来ました。
そして、私が出した答えは、素材と構造が、モノの価値を決める。偽物の素材による形だけが溢れているマーケットに、本質的な美を求めている人は、私以外にもいると思い、この作品を作りました」。
展示の辺境は大きく、この作品の製品化が始まっている。
実は斉藤さん、作品の製品化では、既に実績がある。セカンドスキンとして提案するプリント・ストッキング「プロエフ」だ。
「プロエフ」は、鏡のように磨いたステンレススチールをキャンバスに絵画を描く“ミラーアート”で知られるミケランジェロ・ピストレットにインスピレーションを得て、2010年にはアムステルダム及びミラノ・サローネにオランダ人デザイナーとともに合同出品。五十嵐勝大という協力者を得て日本での製品化のチャンスをつかみ、合同展roomsに出展。現在、日本の他、イギリス、ベルギー、オランダ、台湾のセレクトショップやギャラリーで販売している。
売場で斉藤さんの作品を見る日は、近いかもしれない。
(プロフィール)
Manami Saito=1985年静岡生まれ。2005年、靴デザインを学ぶため、ロンドンのチェルシー・カレッジに留学。05年、同校卒業。07~11年、オランダ・アーネムのArtez Instituteで学ぶ。現在、五十嵐勝大が代表を務める「Proef」のクリエイティブディレクションに携わり、プロジェクトベースでデザイン提供をしている。
Mess Aroundでの展示
プリント・ストッキング「Proef」